紫のゆかりの姫君たち


源氏物語において、紫と関連付けられることが多い3人の姫君である
桐壺の更衣、藤壺の中宮、紫の上を
「紫のゆかりの姫君たち」と、このページでは呼ぶことにします。

紫の上は呼び名そのものが紫ですね。
藤の花の色が紫であることはよく知られていると思いますが、
実は桐の花の色も紫です。
そんなわけで、この3人は紫に関係が深い人物ということになります。
なんで紫なのか…ですが、

紫が平安貴族たちに最も愛された色であることに加え、
紫自体が「ゆかりの色」といわれることが関係しているのでしょう。
この時代、紫草の根(紫根)で染められた紫が
紫の中でも最も上等なものとされていたようですが、
この紫根で染めた紫の布や紙を他のものと重ねておくと
重ねたものに紫色が色移りしたそうです。
近くにあるもの(=縁(ゆかり)のあるもの)を染めてしまうことから
紫はゆかりの色と呼ばれた…ということらしいです(1)。
紫の上の紫は、藤壺にゆかりのある人物であることからつけられたものです。
紫の上は藤壺の姪です。
源氏が紫の上(若紫)について詠んだ歌
「手に摘みていつしかも見む紫の根に通ひける野辺の若草」
  (手に摘み入れて、早く見たいものだ。
  紫草(藤壺)の根に連なっている(縁故のある)野辺の若草(若紫)を)
や、
「ねは見ねどあはれとそ思ふ武蔵野の露分けわぶる草のゆかりを」
  (まだ共寝はしてみないけれども、可愛いと思う。
  武蔵野に置く露を分けあぐねて、逢いかねている草(藤壺)の縁者(若紫)を)
は、古歌
「紫の一本ゆえに武蔵野の草はみながらあはれとぞ見る」
  (紫草(愛する人)が一本(一人)あるために、
  (広い)武蔵野の草(その人に関わりのある人々)はすべてなつかしい気がするよ)
を元にしたものと言われていますが(2)、
紫が紫根で染められるものであることに加え、
やはりこの色がゆかりの色と呼ばれることが、そもそもの前提になっているのでしょう。


この話はこれくらいにして…
(予定より、ずいぶんと長くなりすぎました(笑))

3人の姫君たちの間には
「桐壺に似た、藤壺に似た、紫の上」という関係が成り立っています。
物語の中で桐壺帝は、愛する桐壺に似た藤壺を求め、
源氏は愛する藤壺に似た紫の上を求めます。
藤壺は桐壺の、紫の上は藤壺の代わりでしかないのです。

この、姿のよく似た3人ですが、
当然ながら別人ですので、それぞれに違いがあったはずでした。
もちろん3人とも美しい姫君たちではあります。
ですがそれは、彼女たちに向き合う桐壺帝や源氏にとっては
「コンビニでカラーコピーを取ったら、元の原稿と違う色味に刷り上がった」
というような残念な在りようだったのではないでしょうか。
さらに、源氏の場合は特に、「元の原稿の方がよかったな」という感想になるでしょう。
自分のものにはならない他の人の所有物(例えば色味や質感が気に入っている絵)で、
どうしても欲しくて、せめてコピーをとりたい、
というときのことを思い浮かべていただきたいのですが
(分かりにくい状況設定ですみません)、
それって「全く同じものが欲しい」んですよね。少しでも違ったら(本当は)ダメなんですね。
ですが、コピーでは完全再現ができないので、結局我慢するしかありませんが…。
3人の違いをコピーのたとえで続けますと、
桐壺のコピーを取ったら、なんだか赤っぽく刷り上がってしまった(藤壺)
藤壺のコピーを取ったら、インクが無かったのかやたら薄く刷り上がってしまった(紫の上)
というところでしょうか。


当サイトの紫のゆかりの姫君たちのビーズドールは
そういったことを考えながら作りました。
紫のゆかりだから紫の着物、というのはちょっとイヤだった(笑)ので
表着は3人とも紫と相性がいいといわれるピンクですが、
桐壺は灰色みがかったピンク
藤壺は赤みの強いピンク
紫の上は薄い、透明なピンク
となっています。
とはいえ、紫は外せないと思ったので、
重ねの一番下に入れました。
紫は桐壺から紫の上まで順に濃くしています。
人柄はおそらく紫の上が一番すぐれていたのではと思うので、
せめてそれだけは(笑)ということです。
あんまり変えると似たところがなくなってしまうので、
あえて重ねの1色に入れた黄緑は同じ色を使用しています。
3人とも植物がらみの紫だとすれば、緑があってもいいんじゃないかと思いました。

それと、気付きにくいところですが、藤壺と紫の上には同じビーズをあちこちにちりばめています。
まず、長袴で使用したビーズは同じものですし、
模様の一部にも同じもの(オレンジ色のスリーカット)があります。
また、藤壺の袿の地色(?)の濃いピンクは、
紫の上の袿の紅梅模様とそっくりの色です。
宇治十帖の中で、薫が妻の女二の宮に
ちょっと気になる(!)女一の宮と同じ着物を着せる場面がありますが、
あのイメージです。イヤですねぇ…(笑)
(薫はこのとき「やっぱり女一の宮の方がすてきだ」という感想をもちました)


3人の姫君たち

桐壺の更衣のビーズドールを見る
藤壺の中宮のビーズドールを見る
紫の上のビーズドールを見る





このページを書くのに参考にした本です。

(1)伊沢 昭二 ほか著  「眼で遊び、心で愛でる日本の色」  学習研究社
(2)伊原昭 著  「平安朝文学の色相――特に散文作品について――」  笠間書院

他にも何冊かありそうですが、今思い出せたのはこの2冊だけです…(汗)


おまけ 紫の上アップ おまけ 後姿




2011年10月25日公開



藤壺の写真のページに戻る ビーズドール目次に戻る トップページに戻る