おすすめの本 はやげん!はやよみ源氏物語


 今回ご紹介する本はこちらです。

花園 あずき 著 「はやげん!はやよみ源氏物語」 (新書社)

 久々のご紹介となる(初回以来?)漫画で読める源氏物語です。

 まず、全54帖をたった1冊で読める手軽さがいいですよね。
 帯に「これを読めばあなたも明日から知ったかぶれる!!」とあるように、
 読む気になれば1日で読めちゃうボリューム(200ページほど)です。
 1帖につき多くは2〜4ページで内容がまとめられています。
 とにかくお手軽に済ませたい!という人のニーズにばっちり応える本です。

 だからといって侮ることなかれ!

 帯の文面からはかなり砕けた本のような印象を受けますが(実際にそういう面はありますが)、
 実際に読んでみると、とてもきちんと書かれています。
 難しい話は無しに、筋を楽しく読むことに力が入れられているのです。
 読者を飽きさせないために著者によってふんだんに織り込まれたギャグも、
 きれいにストーリーの中に納まっていますよ。

 源氏物語を知らない人のために、内容をざっくりと気軽にそして手早く読めるように書かれたということですが、
 すでに他で知っている人も十分に楽しめます。
 むしろ、知っている人のほうが楽しめる部分も結構ありますよ。
 例えば藤壺の中宮が源氏から逃げようとしたところ、髪を源氏がつかんでいたという場面があるのですが、
 ちゃんとこの場面の絵で、藤壺の髪が源氏の手にあるんですよー!
 細かいところまで気を配っていて、かゆいところに手が届きます。

 登場人物紹介の解説文を読むと、登場人物の人物像について今までいろいろな方がしてきた多くの解釈を、
 よく踏まえた上でこの本を書かれているという印象を受けます。

 内容をわかりやすく、かつ短くまとめるために、原作(?)と少し変えてある部分はあります。
 ですがそういったアレンジはとても慎重に行われているようです。
 そのため、それによって筋から大きく外れているような部分はないと思います。
 例えば…葵の上たちが葵祭を見物に行く時に、行こうと言い出したのは葵の上ではなくお付きの女房です。
 でも、葵上の発案として言わせてしまえば1コマで済みますよね。
 夕霧浮気騒動(?)で雲居の雁を藤典侍が慰める場面では、
 雲居の雁と藤典侍が並んでおしゃべりしてますが、
 実際は顔を合わせておらず、そういう内容の手紙を藤典侍が雲居の雁に送っただけです。
 まあ、細かい話なので端折ってまとめてしまったほうが、この本の場合はいいですよね。

 絵はいまどきのかわいらしい感じです。
 ちょっと違うかもしれませんがN○Kの春ちゃん(源氏物語なので和風の秋ちゃんのほうを挙げるべき?)
 のような絵に抵抗がなければ、かなり楽しめると思います。

 源氏の悪行(!)は容赦なく、ヘンに肩を持つこともなく描ききっているので清々しいです。
 そのひどい源氏をボコボコにする紫の上を見ると胸のすくような思いがします(笑)
 たとえギャグであっても、あまり殴る蹴るをするヒロインは苦手なのですが、
 紫の上さま、あなたに限ってはいいよ!!と思います。
 だってほんとにひどいんだもん!
 ですので、雪の積もる寒い夜中に女三の宮の元から紫の上の元に帰ってきた源氏を、
 女房たちが閉め出す(!)場面がカットされたのはちょっと残念でしたねー。
 でもまあ、その分紫の上本人がいろいろとやってくれましたからね!いいです(笑)

 本当に面白くて楽しくて、
 すぐに読み終えてしまうのがあまりにもったいなかったので、
 ついこの本の趣旨に反してじっくり2ヶ月くらいかけて読んでしまいました。
 その一方でページをめくる手を止めるのも一苦労でしたよ〜!
 源氏物語は楽しいと、大げさでなく心の底から喜びを感じられるような素晴らしい本でした。
 源氏の漫画化作品の良作と呼んでいい作品だと思います。
 初挑戦した頃にこの本があったら選びたかったですね。
 この本の想定読者層の中心であろう正真正銘の初めてさんの視点で、
 感想を書けないことが残念に思えます。

 「ちゃんと読む気になんかなれないし、気に入るタイプの話かもわかんないけど、
 まあ一応有名だからね…手っ取り早く済ませちゃえ!」という方も
 「長い話だからとりあえずお試ししたい」という方も、
 ぜひこの本で挑戦してみてください。
 そして、どちらの方も面白いと思えたら、
 源氏の世界にいろいろ手を広げてみるのもいいと思います。
 それでしばらくしたら、この本に帰ってきてくださいね。また楽しく読めますよ!





2016年3月4日公開



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