イベントリポート 出光美術館・源氏絵と伊勢絵 展


東京・丸の内の出光美術館で開催中(〜2013年5月19日)の
「土佐光吉没後400年記念 源氏絵と伊勢絵――描かれた恋物語」展に行ってきました。
土佐光吉は、以前紹介した
絵本源氏物語のカバー絵の人です。
この絵がきれいだったので、他の絵も見たくなりました。

実はこのごろ別の源氏が出てくる話と、
古代中国の話を題材にした人形たちを見るために(えっ)
渋谷ヒカリエにちょくちょく出かけていたんですけど、
その人形ギャラリーの前に、この展覧会の広告が入ったラックがあったんですよ…
最近ご無沙汰気味でしたからね(汗)
そろそろ帰ってこーいと源氏物語に呼ばれた気がしました(笑)

さて、源氏物語の構想には、伊勢物語が多くの影響を与えたと考えられているそうです。
主役が皇族として生まれながら臣下に下ることが同じ、
恋愛の話が多いのも同じ、
許されない恋が原因で都落ちをするという内容があることも同じ…という具合です。
そのために伊勢物語を題材とした絵(伊勢絵)と
源氏物語を題材とした絵(源氏絵)では、
自ずと構図や人物の描かれ方が似てくるそうです。
というよりも物語の成立背景を踏まえて、わざと似せたんですよね。
今回の展覧会はこの、源氏絵と伊勢絵の似たところを
見比べてニヤニヤすることがテーマとなっています。
そこに折も折で、今年は優れた源氏絵を多く遺した土佐光吉の没後400年に当たります。
なのでこの際、綺麗な絵をたくさん集めて一度に眺めちゃおうよ☆という
楽しげな狙いもありそうです。
…落ち着いて上品な展覧会の雰囲気を、ぶち壊しにしかねない説明は大概にして
そろそろ真面目に感想を書くことにしましょう。

今回は写真がありませんので、記憶(!)と図録(¥2200)を基に
特に印象に残った展示品について、感想を書いていくことにします。
だいたい展示順です。


「源氏物語 澪標図屏風」
この屏風絵は澪標巻の源氏一行の住吉へ参詣の場面を描いたものです。
それだけだったら普通なんですが、
なぜか鳥居の周りにこの絵が描かれた当時(江戸時代)の
服装をした人々が座っているんですよ…
余りにも周りから浮いてしまっている感じが、まるで観光客のようです。
「もうすぐあの光源氏が来るってさ!一目見たいよね」
と、うわさしながら光源氏が来るのを待ち構えているように見えます。
源氏一行に失礼が無いように(?)笠を脱いで姿勢を低くし、
さらに行列の邪魔にならないように参道の脇に控えているのです。
わざわざ源氏見たさに遠路はるばる、時代さえ飛び越えてきたみたいですね(笑)
つまりタイムトラベルですか!?
江戸時代にすでにそんな絵を描く人が…ってちょっと待ってください(笑)
タイムトラベルどころじゃありませんね。
源氏物語は歴史小説ではなくて完全な虚構なんですから。
ということは江戸時代の熱烈な源氏ファンの、
「ああ、物語の世界に入ってみたい〜!登場人物になっちゃいたい〜!
いや、筋に絡みたいなんて、そんな大それたことは…
物陰から覗くだけでいいんですぅ〜」
というような願いを具現化したものなんでしょうか!?
おおお、ファンアートですね。
日本人はすでにこの時代にはファンアートを作っていたんですか。
しかも熱い!
絵師にわざわざ大金を払って依頼しちゃったあたり。
依頼主の名前はもちろん、描いた絵師が土佐派の人物、という以上の
詳しいことが分からないのが残念です。

この絵を見て勝手にそんなことを思って楽しんでました(汗)
でも、本当に不思議な感じのする絵です。


源氏絵と伊勢絵で、ほぼ同じ構図の絵があったのも面白かったです。
並べて展示されていた「嵯峨本 伊勢物語」の「第87段(芦屋の浜)」と
「源氏物語手鑑」の「須磨 第1段」は本当にそっくりでした。


私がこの展覧会で1番見たかったのは、やはり土佐光吉たちのグループの絵でした。
どの絵も緻密で色鮮やかで見ごたえがあります。
「源氏物語図屏風」は桐壺から夢の浮橋までの絵が
縦に5つずつ、ずらずらっと並んで壮観でした。

「源氏物語画帖」(たしかこれだったと思うんですが…記憶があいまいになってきました)は、
詞と絵が交互に並んだ様子が、豪華な絵本!という感じでした。
こんな本を手元に置けた人が羨ましいです(笑)
それにしてもとんでもなく精緻な絵でした。
手がけた絵師の目が悪くなりそうなほどです。
着物の柄や御簾を描く線が1ミリに満たない細さなんですよ。


「宇治橋柴舟図屏風」は、左隻に描かれたぴーちゃんたちがかわいかったです。
これ描いた人はきっと鳥が好きですよ。作者が分からなくて残念です。

ところでこの絵を最初に見た時、水車の水、黒っ…と思ってしまいました。
何で黒く塗りつぶされてるの、なにこれ墨汁の川!?
…と突っ込みたくなったところで、
銀泥で描かれたところが酸化して黒ずんでしまったのではと思い当りました。
この絵に限らないのですが、
月、波、川の流れ、雲など、銀色だったらきれい、でも黒い…という絵が結構ありました
(黒い三日月なんて泣けます。今にも降り出しそうな雨雲も)。
詞書の文字にかかって読みにくくしていた黒いしみも、
きっと元は銀色で、金泥の模様と相まってとてもきれいだったんでしょうね
(字も普通に読めたはず)。
元の色を想像しながら見てみると、
驚くような美しさが(おおげさではなく)目の前に広がります。
銀の色を戻すことができたらいいのに…
光吉さんたち(さんたち、って…)のグループは銀の変色を予測してか、
あまり絵の中に銀泥を使わないようにしていたように見えました。
使うにしても月だけだとか、必要最小限にとどめていたようです。
だから今も結構きれいなんだと思います(月は黒いけど)。
銀の変色のひどいものは、あの源氏物語絵巻のように
復元模写が作られたら良いなあ…と無茶な願いをしたくなります。

展示室には焼き物や蒔絵などの工芸品も展示されていました。
「荒磯蒔絵十種香道具」と「菊蒔絵二重手箱」は、
細工の細かさとデザインそのものが素晴らしかったです。


真面目な感想になっているか、あやしい…(汗)
ですがそろそろ切り上げます。

今年に入ってから偶然にも伊勢物語をぱらっと読んでいたのですが、
本当に読んでおいてよかった…と思いました。
忘れているエピソードがほとんどという残念さでしたが、
それでも何も知らないよりはずっとましでした(笑)
楽しさ2倍です。
八橋とか、隅田川のみやこどり(ユリカモメ)とか、
武蔵野とか、筒井筒とか、高安の女とか、若草とか(笑)
そういえば、若草は源氏と玉鬘にちょっと似てるような気もします。





2013年4月29日更新



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