ビーズドール 葵の上


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斜め上から

今日もあの人は来ない。
私も会いたいとは思わない。


正面から

私は正妻とは名ばかりの…
夫にとっては取るに足らぬ身。


後ろから

貴女がたも、私も、一緒。


横から

あの人が見つめるただ一人は一体誰なの。
知りたいとは思わないけれど。




今回は光源氏の最初の正妻・葵の上です。
(なっっがい文なので、字を読むのはメンドイ、着物の図案だけ見て帰りたいという方は
一気に下までスクロールすることをおすすめします(笑))


皇后候補だった葵にふさわしく、高貴さと重厚さを感じさせる柄と配色を目指しました。
表着のデザインは、地紋に上紋のある二陪織物(ふたえおりもの)を意識しています。
家柄の伝統の重みと葵の悩みは、少しさめた暗い赤に隙間なく地紋を敷き詰めることで、
良家の姫君としての誇りは、金色の上紋で表現しました。
重ねの配色は、選ばれた人しか身につけることのできない禁色(深緋(赤)・深紫・青(緑))を、
これでもかあぁっ!と並べました。
この組み合わせは今まで作っていそうで、作ってなかったんですよね。
重々しさが葵ちゃんにはぴったりです(笑)

上紋に使った金色は高級感を出すために、
よく見かけるタイプの、透明なベージュのビーズの穴の部分に銀を塗ったものではなく、
表面を金色に加工した、より金色らしい質感のもの(ちょいお高め)を選びました。
重ねに使った緑のビーズは、トーホー製のビーズにチェコで特殊加工をしたものです。
舶来品(!)ですよ!特別感があります(こちらもちょいお高め)。
高級品や輸入品をバンバン使えるのも葵だからこそ(?)です。
袴の色は他の人物の時は表着が赤の時、同じ赤系でもちょっと色を変えていましたが、
葵にはあえて同じ色を合わせました。
おしゃれさより格式という雰囲気を醸し出したいという狙いです
(とはいえ、色をそろえることが格式につながるかは分かりません(汗))。
ポーズはいかにも堅く、見るからにきちんとしたという感じにしてみました。
扇もヘンな風に傾かないように、いつもよりがっちり固定してあります(笑)
絵巻物の姫君のように、
手の先を袖の中に入れたままで扇を支えているような持たせ方にしました。
(「若紫」で、絵に描いた姫君のようと書かれている葵の様子をイメージしています)


さて…葵を作るのは(実は)あまり気乗りがしなかったので(汗)
作るならこんな色で、と考えている赤に(いつか)出会えたら作ろうと思っていました。
そうしたら、すぐに近所の手芸店でそんな色を見つけてしまったのです!(あああ…)
ビーズは同じ色番号でも毛糸のロット番号違いのように、
時期によって色味が少し変わることがあります。
この赤もそういう色だったのでした。
そして制作中は複雑な柄を編むのに苦労し、
途中で編み糸が切れるトラブル(こんなこと初めて!)を乗り越えて、
やっとの思いでなんとか部品をすべて完成させるも、
思いがけず長い休眠に入ってしまいました!
(実は、制作を始めたのは女三の宮の次くらいだったのです。
このページのファイル作成日時も2013年5月になってましたし!)
最大の原因は…こうして書き添える文の内容がまとまってこなかったことです。

私、葵ちゃんが苦手だったんですよ(笑)
性格がキツすぎるように感じて(汗)

思い切って、葵の出てくる部分を最初から読み返してみることにしました。
怒りや恨み以外が全く見えてこない葵の感情、
葵が何を思って生きて死んでいったのかを、何か拾えればと思ったんです。
とはいえ、葵の出てくる場面って少ないんですよね。
忘れた頃に出てきては、源氏を恨んでいる、打ち解けないとばかりです。
全体を読み返したところで、よく分かりません。
なので葵のことが書かれている部分だけを、
本人の言動だけでなく周りが葵について思っていることや、葵の評判も含めて
葵初登場の「桐壺」から、亡くなった「葵」まで抜き出して、
そこだけを読み返すことにしました。

すると…見えてきたような気がしました。葵嫌いも薄まりました(笑)
なぜ源氏をあんなに嫌って、恨んで、
夫婦としてそれなりの時間を過ごしても全く打ち解けようとしないのか…
(葵はね、「本当は源氏を好きなのに、素直にそれを言えないツンデレちゃん」じゃあないんです)



では、葵の心に寄り添うつもりで、彼女の人生をたどって行きましょう!!
朧月夜の時に書いたものと、微妙に食い違うように見える箇所がありますが、
食い違っておりません(たぶん)。
前回は(読者を含めた)周りから見た葵、今回は葵本人から見た葵(のつもり)です。


葵は、左大臣と桐壺帝の妹の間に生まれ、大変高貴な姫君として育ちました。
ぜひ朱雀帝の后にと望まれたこともあるほどです。
この時代の姫君ならば誰もがうらやむような最大の栄誉ですね。
葵もそんな自分を誇りに思ったことでしょう。

ですが、桐壺帝と左大臣の政治的な思惑(右大臣(弘徽殿の女御たち一族)の力を弱めたい)により、
入内することなく、源氏と結婚しました。
葵は、結婚相手の源氏よりも自分が4歳も年上なのを不似合いで恥ずかしい、
つまりは釣り合いが取れないと思っていたようです。
対面や体裁を完璧に整えることをよしとする葵にとっては、
これはもう源氏をいいとか悪いとか思う以前の問題ですね。

でもまあ、お父様(左大臣)のご意向に強いてそむくことはしない、という人なので
(政治の駒として優秀なように、そういう風に育てられています。ザ・良家のお姫様!)、
とりあえずは、源氏と夫婦としての人間関係を前向きに築こうと努力したはずです
(相手が帝でも源氏でも、どちらにしても政略結婚なのです)。
もちろん源氏も同じように考えているだろうと葵が思うことに不思議はありません。
ところが、結婚当初からヤツがさっぱり自分のところに帰って来ないので、
散々戸惑ったことでしょう。
なぜ…?と。

この時源氏は、藤壺の女御ただ一人に恋焦がれて頭がいっぱいなので、
葵のことなんて初めから見ていませんでした。
藤壺との縁を引き裂かれて間もない頃だったので、ほかの人に構う余裕はありませんでした。
この人(葵)と結婚しなければならなくなったから藤壺に会えなくなったんだと、
葵に対して八つ当たりのような気持ちも密かに抱いていたかもしれません。
しかも、誰を見ても藤壺と比べてしまうので、
葵のことも立派な人だとは思うけれど気に入らない、などと思う始末です。
そしてほとんど葵のところには帰りませんでした(ほぼ内裏にいました)。
次第に、あちこちで藤壺に会えない寂しさを埋めるために浮気を繰り返すようになるのです
(でもどの女性も、源氏にとっては藤壺には遠く及ばないのです)。

葵の父の左大臣は、まだ源氏も幼い(若い)し
(事情はともあれ、夫婦に決まった以上は
左大臣邸に帰ってくるものだと分からなくても仕方がない)と、
最初のうちはあまり気にしていなかったようですが、
源氏と、妻として顔を合わせている葵は早々に気づいてしまったかもしれません。
この人は私を見ようとしていない、人間関係を築こうとしていない、ただ一人、他の誰かを見ていると。
源氏の本命が藤壺とはさすがに気づかなかったでしょうが、
これは大ショックなんてもんじゃあ、ありませんよ…

しかしどうすることもできません。
帝のご意向を父の左大臣がを受けての結婚ですし、
自分の立場をよく心得ている葵に関係を解消する選択肢はありません。
いっそ、源氏が完全に通わなくなれば離婚成立なのですが、
ヤツはそれもしないですし…
(源氏にとっても立場上、葵と離婚できないのです。
親戚関係的にも政治的にも差しさわりがたくさんあります。
葵から切り出せる離婚の方法は出家することでしょうか)

葵はさんざん源氏のことで悩み(兄の頭中将が知っているくらいです)、
結果として源氏に対して心を閉ざしました。
葵が悪いわけじゃないですね!こりゃあ、悪いのは100%源氏です!!
そういうわけで葵は、源氏が自分の所に来たところで、
会いたくないと思うようになってしまったのです!


やがて月日が経ち、最愛の藤壺に会えない状態に否が応でも慣れさせられた源氏は、
いまさら遅いのですが、ようやく自分と葵の関係を見つめ始めます。
そして源氏は自分を棚に上げて、葵が打ち解けてこないからいけないと思い始めるのです。
自分は葵を大切にしているので、いつかは自然に打ちとけてくるだろうと。
長生きさえすれば分かるだろう、と葵に言い放ちます
(不吉なことを言ってますね。葵は早世するんですよ…)。

源氏は葵を、正妻として信頼できる人柄だろうけれど、
一方では堅苦しくて重々しくて打ち解けにくいし、つまらない人などと思うのです。
これは葵の元からの人柄でもありますが
(良家の姫君はかくあるべしと、小さい頃から叩き込まれてきたことでしょう)、
なにより葵の心を閉ざさせた源氏のせいなのです。
年月が重なるにつれて、
葵の穏やかで落ち着いた人柄を信頼していると言う言葉に変わりますが、
言葉通りの「いい意味」のほかに
ほうっておいても逃げていかない女という気持ちもあったでしょうね。

悲しみに心を閉ざしきったままでも葵がそのように「きちんと」振舞えるのは、
「桐壺帝の妹の内親王腹に生まれた一人娘として大切に養育され、
一時は后候補として望まれるほどであった自分」という誇りがあるからです。
そんな自分なのだから、何があっても、いつでも正妻らしくきちんとしていなければと、
葵は自分の心を支えているのです。
でも葵がそうして振舞うことで、源氏には葵が人間らしい感情を持っていないかのように見え、
なおさらつまらない人に見えてしまうのです。
源氏は、そもそも自分が何をして葵の心を閉ざさせてしまったのかも、
葵の誇りがどのように葵を振舞わせるのかも知らないので、
ほんのちょっと適当な扱いをしたくらいで怒るプライドの高い女だとか
勝手に腹立たしく思っているのです。
まあ葵にしても、
自分を大切に扱わない=左大臣家を軽んじているという(理性的な)怒りは
常にあったとは思います。



ところで、源氏が葵を評する言葉は例えば、
「いとをかしげ」「けざやかにけ高く、乱れたるところまじらず」「あまりうるはしき御ありさま」
「とけがたく」「恥づかしげ」「絵に描きたるものの姫君」「うるはし」「気高ううつくしげなる御容貌」
「そのことの飽(あ)かぬとおぼゆる疵(きず)もなし」
などです。
ダダダーーーッと書きましたが(汗)、現代語にしてまとめると、
「とにかく美しい」「とにかく気高い」「非常にきちんとしている」
「端麗」「打ち解けにくい」「こちら(源氏)が恥じ入るほど(立派)」「ここがダメという欠点もなく」
という具合になります。
これって、きれいだけど特に印象がない人と言っているのと同じことですね。

ただ「きれいな人」とだけ評価される人。
作中のどこかで他に聞いたことがありませんか…?

夕顔殺人事件(←!)の犯人の女です。
源氏が六条の御息所に会うのがイヤで夕顔と遊んでいた時期ですし、
事件直前に夕顔と六条を比べるようなことを源氏が考えていたこともあって、
(読者の間で)六条が容疑者として浮上していますよね…
浮上どころかほぼ確定という勢いで!
でも皆さんもよくご存じのように、犯人が六条だなんてどこにも書いてありません。
「六条っぽい」とも書かれていません!

後に六条が葵に取り憑いたときには、生霊の正体が六条だと源氏ははっきり分かりました。
ところがこの夕顔の時は、特に誰とは思っていません。

でも犯人の美しい女(いとをかしげなる女)の言葉によると、
女と源氏は明らかに会っていますね。
この物の怪が六条ならば、直前まで六条のことを考えていたわけですから、
すぐにそうとわかりそうなものです。

犯人の言葉を確認してみましょう。
「己がいとめでたしと見たてまつるをば、尋ね思ほさで、
かく、ことなることなき人を率ておはして、時めかしたまふこそ、
いとめざましくつらけれ
(テキトウ訳:私はあなたを素晴らしいと思っているのに、その私をたずねようと思わないで、
このような取り柄のない人を連れてきて可愛がられるなんて、
とても腹立たしく辛い)」
確かに六条は言いそうな言葉ですが、六条でなくても言うかもしれませんね。
そう、例えば葵とか!

「夕顔」を読み返してみると、
途中、葵のところにはほとんど行かないので葵が恨んでいるとわずかに書かれているのみで、
その前も後も、驚くほど葵のあの字も出ません!
事件直後に焦りまくって色々なこと(世間の人になんていわれるだろう!)を考えているときも、
全く「正妻」の葵のことを考えていません。
事件の始末がひと段落して、自邸の二条院で休んでいる頃になってようやく、
左大臣の子息たち、つまり葵のゆかりの人が出てくるのです。

驚くべきナゾの空白。
あまりにも不自然ですね。
作者が物語を書いていく上で、何らかの狙いがあるとしか思えないほどです。

源氏が葵のことを何にも考えていない間、
葵が絶えず源氏のことを考えていたとしたら、
生霊だって飛びそう…です(汗)



話がそれましたね(汗)
葵にとっての源氏事件(!)の話に戻りましょう。

源氏が若紫を自邸の二条院に迎えた時、
若紫が身寄りのない子供だという詳しい事情を何も知らない葵の女房が
「二条院に女を迎えた」と、
合ってるといえば合っているけれど…というような不確かさで葵に知らせてしまいました。
葵には、わざわざ迎えて大事に世話をしている(実際は子守り(笑))と伝わったので、
これからはその人を正妻として扱うつもりに違いないだろうと、また源氏を嫌う原因になりました。
しかもその女に引き止められて(若紫はとてもかわいいのです)、
左大臣邸が行き先の場合をはじめ、外出を取りやめることが多いとも聞いて、
また女房たちが勝手な想像で、誰だかもわからない(源氏が若紫の身元を必死に隠している)くらい
身分が低く(いえいえ)、ということは頭も悪く(そんなこともない)、
その辺でちょっと気に入った女を(ここは合ってる(笑))、
人にとがめられたくなくて隠している(これも合ってる!誘拐がばれたらいけないですから)
幼稚な人とも聞いているし(小さい子供ですから(笑))とかなんとか言って、
更に葵の怒りを煽りまくりました。

もし、源氏が「母と祖母に先立たれて身寄りがないという、源氏自身とも重なる境遇の幼い少女を、
実父に引き取られると継母にいじめられそうなのでこっそり引き取って面倒を見ている」という事情を
包み隠さずに葵に打ち明けていたら、
おそらく葵は怒らないばかりか源氏を見直し、2人が分かり合うきっかけになったかもしれません。
なぜなら、葵にも特別に可愛がっていた身寄りのない女童の貴君(あてき)がいたからです。
葵は若紫の養育を引き受けようとさえしたかもしれません。
…もっともそうなると、やはり2人の間には後にさざなみが立つかもしれませんね。
源氏には若紫を葵に紹介する気はさらさらなかったから
(憧れの藤壺そっくりに若紫が育っていくところを眺めていたかったのです)
良かった(?)のですが、
成長していく若紫を見つめる源氏の眼差しなどで、
若紫が源氏の心の中に住むたった一人の面影を宿す少女だと、
葵が勘付いてしまうかもしれません。

そういえば、源氏の父の桐壺帝も、源氏と葵の仲がうまくいかないのを、
葵がとても気に入らないような女性だったのか、かわいそうに、と思っていました。
不仲の原因が自分の息子だったと、よもや思わないのも、仕方がないとはいえ葵の不幸ですね…

源氏もたまには反省します。
葵に欠点らしい欠点はないのに、
自分が葵を怒らせるような振る舞いをする(慰みのために若紫を迎えたりする)から、
こうして葵に憎まれる…と。
とはいえ、源氏が葵のことを「正妻だから」大切にしなければとしか思わないのは変わらず、
葵の心も閉ざされたままです。


そうこうしているうちに葵が懐妊します。
葵が懐妊したということで、
なんかよく分からないけれど2人の関係の修復ができたのかな?などと思ってはいけません!
身も蓋もない話ですが、仲が悪くても子は生まれます…
もっとも葵は、今更源氏に恨み言を言ったところで甲斐がないという
あきらめの境地には達していたようです。

葵の妊娠中の出来事として見逃せないのが、有名な葵祭での車争いです。
作中では事件の原因を、葵が思いやりに欠ける人柄だからなどと
(物語の語り手の女房の口から)説明されてしまっていますが、
葵の立場から考えると、
源氏から見ればどちらも取るに足らぬ身で同じだという思いが
少なからずあったからかもしれません。
そんな相手(六条)を、自分がことさら卑屈になってまで立てる必要はないと。
そういう思いが本人も気がつかないうちにあったために、
源氏の正妻としての余裕を持って六条に接することができなくなっていたのではないでしょうか。
そう思ってしまうことが、そもそも卑屈になっていることなのですが…

妊娠中の葵は体調がすぐれず、車争いのあとは更にひどくなり(汗)、
さすがに源氏も心配して祈祷を頼んだり、そばに付き添ったりして過ごします。
この時、葵が体調不良のためにぐったりしている様子を見て、
いつもは近寄り難いと思っている葵を初めてかわいいと思うのです。
病気で朦朧としている様子がかわいいなんて、
どういう感性だよ!と突っ込みたくなるところではありますが(汗)それはさておき、
その「かわいい葵」は、朦朧としているところに六条の生霊が乗り移り、
葵の人格が消えた姿でした!
源氏は結局、葵その人を見ているわけではないのです…
でも、葵には源氏が自分を心配して泣いているようには見えます。
初めて源氏の気持ちが自分に向いているように感じられたことでしょう。
そうして硬く閉ざされた心がほんの少しゆるんだのでしょうか。
物の怪が少し静まった隙に、意外と安産で若君が生まれたのはそのせいだったのかも知れません。


葵の出産が無事済んだので、源氏は久しぶりに参内することにします。
この日源氏が参内している間に葵は亡くなりました。
源氏は出かける前に葵を見舞い、
今までの長い年月、何に不満があったのだろうと葵の様子を見つめながら思います。
別に源氏は、葵の死期が目前に迫っているのを直感したわけではありませんが、
その時、不思議なほどまでじっと見つめずにはいられませんでした。
おそらくこれが葵の死のきっかけです。
源氏が初めて「葵」に気持ちを向けたのです。
さらに源氏は、早く帰ってくる、このように会えれば嬉しいのに、
全快するために気持ちを強く持つように、などという温かい言葉を
(ダメ押しに)言い置いて出かけてしまいました。

病床に臥しながらもいつもよりも目を凝らして源氏を見送った葵は、
源氏が他の誰かではなく自分を見ている、自分は大切に思われている、
幸せだ、と初めて感じたのではないでしょうか。
その途端に、今まで張り詰め続けていた気持ちが急に切れてしまったのです。

源氏は葵のそうした心境の変化に気づくことなく、葵も源氏に伝えることなく、
2人の関係は葵の突然の死によって終わりました。
源氏は今までを振り返って激しく後悔します。
放っておいてもこのように居なくなることは無く、
いつかは自分を見直して、打ち解けられるだろうと思っていたのに、
結局それだけの時間は無く、
浮気をし続けては恨まれ、とうとうそのまま死なれてしまったと思っているのです
(ざまあみろ状態ですね…
まあ源氏は特に大切に思っているわけではない女性であっても、
いざ自分の下を去っていくと、やたら惜しんでうろたえるので、
葵の一件も結局そのうちのひとつに過ぎないのでしょう)。
そんな源氏の様子を見た葵の兄(この時はすでに違う役職ですが、頭中将)は、
結婚以来の長い年月、妹を愛しているようには見えなかったけれど、
本当は正妻として大切に思っていたようだと、妹の死を惜しみました。
(というか、やっぱり今まで「正妻としては大切にしている」という風にも
周りからは見えなかったんですね…源氏)。



…こうして見ていくと、葵はツンデレではないですよね!?
好きか嫌いかの前に心を閉ざしたのでは…
ツンデレは、本当は好きなんだけど…という前提がないとだめなんですよね?

まあ…ツンデレな葵が好きという方はツンデレな葵が好きでいいと思います!
ここに書いたことは当然、たまたま私がそう思ったというだけのことですよ!
(葵をツンデレとするとキャッチーなので、源氏物語を読んでくれる人が増えてよいです)

結局葵は(どういう思いで亡くなっていったにしても)
源氏と結婚して幸せだったとは、とてもいえそうにありません。
この世に読者を含め、葵の味方は誰もいないのです!
紫式部め、狙ったな!い・じ・わ・る(はあと)
源氏にとっての藤壺のような、全てを投げ打てるほどの格別なお相手がいない人(!)と
結婚できれば幸せになれたかもしれません
(藤壺と出会わない人生を歩んできたなら、源氏でもOK。でもそれじゃあ、お話が始まらない!)。
ということは、やっぱり朱雀帝の后になった方が幸せだったでしょうか。
朧月夜が入内してくるとやっぱりピンチかもしれませんが、
少なくとも朱雀帝のほうが源氏よりは、葵を最初から大切にしてくれそうです。



おまけ
光源氏と葵の上
源氏:お美しいですね、お姉さんお名前は?
葵:……(姫君は眉ひとつ動かさず、源氏の方をちらりとも見なかった)


材料と図案はこちらで紹介します。


2015年6月24日公開



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