管理人について(ロング版(笑))


私が源氏物語に出会ったのは、高校生の頃でした。
「源氏物語は光源氏というプレイボーイが出てくる恋愛小説だ」
と繰り返し聞いていた私は、
それまで源氏物語に手を伸ばすのを避け続けていました。
なんだかくだらなそうな話だと思っていたからです。
でも、とても有名な物語ではあるので…
あらすじくらいは知っておきたいかなと思って読み始めました。
初めは、その程度の動機ですから、
口語訳を何冊も読むのは面倒で
(原文にいきなり挑戦…ということも(もちろん)せず)、
漫画で済ませよう!と思いました。
さて、どの漫画で読むか…ということになりますが、

1.公立図書館によくある、小学生向けの学習漫画版源氏物語(これなら1冊か2冊で済む)

か、
何と高校の図書室に置かれていたので

2.あさきゆめみし(有名ですね)
3.全4巻の漫画版源氏物語(「あさきゆめみし」ではない)

のどれかという選択肢がありました。

私は選択肢3を選びました。
理由は…
選択肢1の学習漫画は敷居が高い(!?)というイメージがあり
(小学生の頃、クラスの頭のいい子たちがよく、日本史ものの学習漫画をよく読んでいたのです)、
選択肢2の「あさきゆめみし」は、あらすじを知るだけならちょっと多すぎる
(図書館にあったのは宇治十帖編に入る前の内容まででしたが、それでも7冊)
からでした。

思えばこの選択が運命の始まりでした(←大げさすぎ(笑))。

さて、読むぞ!と思い、本を長く借りられる春休みの前に図書室に借りに行ったのですが…
…1巻がない!
そういえばいつもこのシリーズの1巻は図書室にありませんでした。
――誰かが借りたままになっているのかな?
私はとりあえず、図書室にあった2〜4巻だけを借りました。
順番通りに読めないのは残念でしたが
まあいいか、と思ったのです。
さすがに全4巻なので、内容がコンパクトにまとまりすぎて、
分かりづらく感じるところもありましたが、
春休み中に3冊を読み終えました。
そして春休み明け、
図書室に本を返却に行きました。
そのとき、書架にまだ1巻が戻っていないようだったので、
司書の先生に
「このシリーズの1巻はいつごろ帰ってきますか」
と尋ねてみたのです。
すると、
1巻はかなり前に貸し出して、そのままなくなってしまったというのです。
先生の話によると
その1巻を借りた人は、本を弁償しようと本屋さんを何件も回ったそうですが、
既に絶版して手に入らなかったということでした。
…だからごめんなさいね〜、と先生は私におっしゃって
読めなかった分を「あさきゆめみし」で補うことを勧めてくださいました。
(補う、なんていう書き方をしてしまいました、
あさきゆめみしファンの方は気を悪くされないでください…)

2巻の冒頭の時点で、すでに葵の上が亡くなっていた(!)のですが、
そこまでの内容は無事に「あさきゆめみし」で読むことができました。

(ところで、「あさきゆめみし」では桐壺の更衣に関するエピソードが
原文よりもふくらまされて描かれています。
このことは、「あさきゆめみし」を紹介していた本の記事で知っていたのですが、
実際に原文と比べると、数倍の内容が描かれていますよね。 原文では、えっ、これだけ?というくらいしかないですよね)

それはそうとして、
2種類の漫画版源氏物語を読み比べて

 (結局、あさきゆめみしも結構読みました。まだ全部ではないのですが…
 あさきゆめみしのいいところは、きれいな絵と物語の分かりやすさです。
 私はあさきゆめみしで惟光のファン(!)になりました)

一番驚いた違いがありました。

「物語論」の有無です。
4冊組の漫画では物語論も触れられていましたが、
「あさきゆめみし」ではこの部分がスパッとカットされていました。
かわりに光源氏が花散里のもとを訪ねる話が入っていた…と思います。

物語論のくだりを読んだことのある方なら、
あの、唐突に入る何やら意味深な会話が、印象に残っているという方も
いらっしゃるのではないでしょうか。

その違いがあったために、かえって私は物語論に引きつけられたのです。
「なぜ、触れた漫画と触れなかった漫画があるのだろう」
もちろん、どの部分を漫画として描くかは作者が決めることです。
「あさきゆめみし」では少女マンガとして、恋愛物語を中心に物語が展開していくので
物語論は蛇足な感じがあったのでしょう。

では、なぜ紫式部は物語論を書いたのだろうと思えたのです。
物語構成のミス?
いえいえ、いくらなんでもそれはないのでは…?
あの物語論は紫式部が特に言いたくて、わざわざ書いたものではないのかと、
どうしても私には思えてしまうのです。
そう…例えるなら、この物語の魂です。

描かれた心理描写の巧みさ、政治的な策略の数々、とても公にはできない秘密…
事実としての記録だけの歴史書では分からないことがある。
歴史は人の思惑、人の心によって紡がれていくものだ、と
紫式部は言いたかったのではないでしょうか。
このことを表現するためには虚構の形をとるしかありません。
人々の状況や心の中までも把握していなければならないためです。
現実では人々の心の中まで把握することは、もちろんできませんよね。

源氏物語は恋愛物語として語られることが多いですが、
それはこの物語のもつ要素のほんの一部分であるように思えます。
もっと広く、人間心理全般が描かれているといえるでしょう。

源氏物語は単なる恋愛物語ではない…。
私は源氏物語にハマったのは、そう思えたからでした。


…まあ、あれこれ難しいことを考える必要もありません。
何といっても、純粋にストーリーが面白いですし!
さすがは千年もの間、読み継がれてきただけのことはあります。

そうは言っても恋愛ものなんでしょ?と言うあなた! 恋愛だけだと考えてはもったいないです。
例えば…登場人物の人物像、各場面の舞台設定(位置関係など)がかなり作りこまれていることも、
源氏物語の魅力を支える重要な要素です。
そういったことを考えながら読んでみるのも面白いと思います。
ですので、恋愛ものが苦手な人でも意外と大丈夫です
(私自身がそうです)。
読んでもらえればすぐ、この物語が持つ奥深さに気がつくはずです。
私がエラそうにいまさら言うことではありませんが…


「源氏物語」最高!!





…長文失礼しました。お読みいただきありがとうございます。






そういえば本文中に取り上げた漫画をひとつ、
ずっと「あさきゆめみしではない」とか「4冊組の漫画」とかなんとか(笑)
物語論と同じくらい(物語論よりも?)意味深に書いてしまいましたが
この漫画は

岸田恋 画、西村亨 監修 「マンガ源氏物語」 (河出書房新社刊)

でした。
柏木を責め立てる光源氏の表情の恐ろしいことといったら…!
「図書館版」というものもあるそうなので、所蔵している図書館があるかもしれません。
機会がありましたら、ぜひ読んでみてください。












2011年9月22日更新



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